パナソニックは今年9月に国内の個人向けスマートフォン事業から撤退すると発表した。個人向けスマホの供給先であるNTTドコモにも今年の冬以降は新製品は供給しないこととし、企業向け専用端末や生産を委託する海外向けを除きスマホ事業から撤退する。スマホ事業からの撤退の背景にはドコモが今年の春、ソニーとサムスン電子の2機種を中心に据える「ツートップ戦略」から外れたことが大きく影響していると言われるが、既に国内スマホ市場ではシェア7位以下と低迷していた。個人向けスマホ事業からの撤退に続いて10月にはプラズマディスプレイ/プラズマテレビからの撤退も報じられ、相次いで主力コンシューマ事業からの撤退ということになった。
同社は2013年3月に発表した中期経営計画のなかで、2014年度までの2年間で「赤字の垂れ流しをやめる」とした上で「安直な選択肢はとらない」と宣言。(津賀社長)安易な事業撤退はしないとしていた。しかし2年連続で7500億円超の赤字を計上した同社に赤字事業を抱えておく余裕はなく、両事業とも事業継続は困難と判断されたようである。
同じ中期経営計画の中で現在赤字事業の止血策として、構造改革費用として2013-2014年度2年間に約2500億円をつぎ込み、B to CからB to Bへの転換とパナソニックの事業構造大きく変えるとしている。
B to CからB to Bへの転換を示す幾つかの事例をみてみよう。
2012年9月にパナソニックは「Let'sNote(レッツノート)」の新機種「AX2シリーズ」を発表した。タブレットタイプにもウルトラブックPCとしても使えるコンバーチブル型の筐体を採用している。OSにはタッチ操作が可能なマイクロソフトの「Windows 8」を採用している。
パナソニックはこの「AX2シリーズ」でビジネスパーソンのモビリティニーズに応えるということで「クリエイティブモバイル」というコンセプトを提案する。
「AX2シリーズ」は「1台のノートパソコンをタブレットとしても使いたい」というユーザの声に応えたものだという。
ノートパソコンの作業性(クリエイティビティ)とタブレットの閲覧性(ビューアビリティ)これらを一つの筐体で実現した結果がコンバーチブルタイプの採用であった。
「AX2」は「ノートスタイル」と「タブレットスタイル」が素早く切り替えられ、ノートスタイルではキーボードを使って作業を行い、タブレットスタイルではスマートデバイスとして移動中でもメールやWeb閲覧が可能となる。
「AX2」も従来のレッツノートシリーズ同様、軽量・頑丈・長時間稼働を追及している。またビジネスモバイル用途を考えて標準サイズのVGAコネクタや有線LANのコネクタ、盗難防止用セキュリティロックホールも付いている。
これらの機能や特徴でビジネスパーソン向け、ひいては広く法人向けとしての需要も期待している。
2013年12月に発売するフルハイビジョンの4倍の解像度を持つ4K画質の20インチタブレット「TOUGHPAD 4K」。価格はオープンだが標準モデルで実売価格は45万円前後を想定している。OSには最新のWindows 8.1を搭載した。
「B to B」の法人向けモデルとはいえタブレットを冠するには高額なイメージは否めない。しかしこの価格にはそれなりの理由がある。
高精細の4K液晶ディスプレーに新方式の電子タッチペンを使うことで、思い通りの文字や図形を紙の上のように繊細に描くことができる。これは従来の電磁誘導式の電子タッチペンでは実現できなかったものだ。
同社は想定ユーザ企業と電子タッチペンなどの使い勝手を検証し、実用性と完成度を高めたという。
超高精細と小型軽量サイズ、Windows搭載の汎用性のあるPCシステムであることを訴求点に、幅広い業種・業態への導入を提案していく。
例えば自動車やゼネコンなどの設計部門にTOUGHPAD 4Kを導入すれば、業務をペーパーレス化するソリューションとして有望と思える。化粧品業界や医療分野にも4Kの高精細を生かす用途が考えられそうだ。企業の生産性を向上させるツールとして期待できる。
「TOUGHPAD 4K」はニッチな商品ではあろう。しかし同社が目指す法人市場の開拓は、ユーザーニーズを十分に取り込み、それを高い技術力と分かりやすいコンセプトに変換して、業界でシェアナンバーワンを目指せる商品作りを実践することで値下げ競争に飲み込まれない優位性を築くことにあるという。
前述のようにパナソニックは、プラズマテレビやコンシューマスマートフォンなどの「B to C」市場から、法人向けパソコンや自動車部品、産業用機器などの「B to B」市場への転換を急ぐことで再生を目指している。
旧松下電器産業のDNAでもある「マスマーケット」に背を向け、特定の用途に絞り込んで法人市場を開拓しようとするパナソニックは失地回復をなし新しい成長基盤を確立することができるか注目したい。