急増するモバイルトラフィックへの対策のひとつとして注目されるスモールセル。これまでの基地局の主役をマクロセルから引継ぎ、スモールセルは将来的には看板、信号機の中など街中に設置され、巨大なマーケットを形成すると期待されている。
しかし、キャリア各社のスモールセルへのアプローチは、現状の周波数帯域や基地局展開状況によって大きく異なると予想される。
そこで今回は、MCAが2014年2月に発刊した調査レポート「スモールセルをめぐるキャリアおよびベンダ各社の戦略と市場展望」から、キャリア各社のスモールセル動向について見ていきたい。
モバイルキャリア3社の基地局構成は、出力別基地局数と周波数帯別構成で見ると、大きく異なっている。その背景には、ネットワーク構築の歴史的な経緯もあるが、トラフィック対策へのアプローチの違いも大きく影響している。
・KDDIは、ピコセル中心のセル構成。トラフィック対策としてピコセル等のスモールセル化とそれに伴う干渉対策に重点。
・ソフトバンクは、マクロセル中心のセル構成。トラフィック対策としてWiFiやフェムトセルを使ったオフロードを重視。ただし、グループ会社のWCPのTD-LTEを含めればスモールセル展開でも進んでいる。
特に、1~4Wのピコセルに注目して見れば、KDDIが突出し、ピコセル主体のセル構成となっている。しかも、この傾向は2012年度以降の2年足らずでの変貌である。
【モバイルキャリア3社の東京都23区の出力別基地局数と周波数帯別構成】
KDDIのスモールセル化戦略は、無線機ベンダシェアにも大きな影響を与えている。
各局の出力から各ベンダシェアを推定すると、KDDIのピコセルを提供するサムスン電子が局数ベースでは、エリクソンに並ぶ2番手に躍進している。
【キャリア3社の東京都23区における無線機ベンダシェア(総務省の登録局数ベース)】
今後の各社のスモールセル展開は、2016年度がひとつの分岐点になると予想される。そこでキーとなるのは、現在導入が検討されているLTE-Advanced R12に基づく3.4GHz-3.6GHz帯だ。
キャリア3社のスモールセルの新局数は、2013年度見込みで2万局あまり。これが2017年度には3倍以上に増加すると予想される。
【キャリア3社の新局数予想(全国ベース)】
3.4GHz-3.6GHz帯では、単に基地局が小さくなるだけではなく、スモールセルと既存帯域のマクロセルをキャリアアグリゲーションで一体運用して高速通信を実現する「アドオンセル」が導入され、基地局市場の構造は一変する。
その影響は、単にフェムトセルやWiFiベンダを含めた無線機ベンダだけでなく、これまで基地局建設を担ってきた工事会社にも及ぶと予想される。