インターネットイニシアティブ(IIJ)は4月19日にイベント「IIJmio meeting #3」を東京で開催した。その模様を前編に引き続きお伝えしていきたい。
今回は、トークセッション及び参加者との質疑応答に焦点を当てたい。
最後のセッションに登場した堂前清隆氏はスピードテストの実態について解説した。
堂前氏自身が「みんな大好きスピードテスト」と切り出して会場の笑いを誘っていたが、アプリなりサイトなりで手軽に計測ができ、具体的な数字が瞬時に結果として出てくるスピードテストは利用者からも非常に重宝されている。しかし、その手軽さがテスト偏重を生んでいるともいえる。
堂前氏は「スピードテストを否定するわけではない」と前置きした上で、測定値が持つ意味合いについて認識することも必要であると問題提起を行った格好だ。
論点は「計測対象」と「計測値」の2つ。
前置き | スピードテストにおける論点整理 |
みんな大好きスピードテスト | スピードテストは何を測っているのか |
スピードテストの計測結果は、例えば「IIJmioのSIMは○×Mbps」などSIM提供会社の実力として把握されるが、実際には電波状況、端末の性能、基地局の混雑具合、スピードテストサーバの混雑具合、インターネットの混雑具合など、IIJがコントロールできないものも含んだ数字だということに留意する必要がある。
「測定条件を同じにすれば問題ないのでは?」と考えがちだが、測定場所を同一にした場合も、端末がつかむ電波が異なる基地局のものになる可能性もある。同一条件にするのは非常に難しいのが実態だ。
また「Windows Update」や、人気アプリのバージョンアップなど、特定のイベントに絡んだネットワークの混雑も起きている。芳しくない結果が出た場合、それが外的要因による一時的なものなのか、恒常的な設備不足によるものなのか、切り分けて判断する必要があると述べた。
意味のある計測を行うためには | 同じ場所でも異なる基地局電波を つかむ可能性が |
意外な要素が影響することも | スピードテストの結果を見る際の留意点 |
計測値は具体的な数値で表示されるが、通信速度は絶えず変動しており、上下するものを1つの数値にするためには何らかの加工が行われている。「平均値」や「最大速度」、不安定と思われる計測結果を除外する「ピークカット」など様々な手法があり、アプリごとに方法はまちまちだ。
しかし最終的な測定値はどこも「○×Mbps」と出てしまうため絶対的な尺度のように捉えられがちである。正しくは、あるアプリと別のアプリの結果を単純に比較することはできないのだ。
スピードテストの「計測値」 | 考えられる加工方法 |
ピークカットとは | どの加工が「正しい」と言うわけではない |
また、IIJmioのバースト機能(低速通信時でも1回あたり75KBは高速通信が可能となる機能。詳細は前回記事参照)との絡みで、通信の可視化実演も行われた。
IIJmioの低速通信環境下において実際にどのように通信が行われているのかグラフ化する試みで、「LINE無料通話」は通話中であっても200kbpsを大幅に下回る帯域しか使用していなかったり、「radiko.jp」は5秒に1回程度の散発的な通信のため毎回バースト機能が使えるなど、サービス毎の通信のクセも紹介された。
ここまでトークセッションの模様をお伝えしてきたが、イベントではトークセッション後に参加者から多数の質問が寄せられ、それぞれに対して登壇者が回答を行った。本稿の最後に、質疑応答の模様をお伝えする。なお、トークセッションの合間に行われた質問についてもあわせてこの項で取り上げたい。
技術的には、直収パケット交換機の上にIMS(IP Multimedia Subsystem)を設置することになると思うが、MNOであるNTTドコモから具体的な話が出ていないため、サービス提供の有無を含めて現段階では回答は難しい。ただし、実際にIIJが主体的に行おうとすると、電話番号の取得など相応の準備が必要となるなど、制度上かなり大変である。
ChromeやOperaなど、ブラウザとサーバを組み合わせて通信データの圧縮を行う取り組みについては把握しているが、通信インフラという「土管」を提供する電気通信事業者が土管の中に流れるデータをいじってよいのかという問題がある。
仮にIIJがキャッシュサーバを設置する場合、設置場所はボトルネックの手前にならざるを得ない。つまり、NTTドコモとIIJとの間の帯域負荷軽減効果は期待できない。
IIJmioの料金体系は接続料以外の様々なコストも勘案して決定している。日を追う毎にリッチになっている通信への対応を行うべく、毎週品質に関するミーティングを開催し、絶えず品質の改善に取り組んでいる。実際、NTTドコモとの帯域はサービス開始から30回以上も拡張しており、品質の改善を犠牲にしてまでプライスリーダーになろうとは思っていない。
接続料が半額になったのでIIJmioも半額にすることを期待されているのかもしれませんが、我々IIJ社員の給料も半分にしないとそんなことはできないし、それは誰もハッピーにならないので勘弁してください(笑)
パラメータは日々調整しているが、帯域が不足した際にクーポン保有者の通信を優先的に行うような取り組みはしていない。優先順位をつけると、優先順位の高い人が低い人を駆逐してしまう。
キャリアと同じビジネスモデルを作った場合、キャリアより安くできるとは思えない。我々が安価なプランを提供できているのは、例えば店舗網がなかったり、端末開発コストをカットするなど、キャリアが行っていることの一部を端折っている点も要因の1つである。
端末とSIMカード(通信)がバンドルされる世界より、端末は端末自体の魅力で売れていき、そこに多様なSIMカードが提供される世界が理想である。
とはいえ、端末とSIMカードのセット販売が盛り上がっている現実は受け止める必要があり、セット販売についての可能性はゼロではない。
IIJmioのオプションプランとして「IIJmioセーフティーメール」を月額540円で提供しています。
質問の意図はdocomo.ne.jp、ezweb.ne.jp、softbank.ne.jpなど、世間一般が携帯やスマホからのメールであることが認識できるようなアドレスの提供ということだと思うが、IIJがそのようなものを提供したとしても世間に認知されるようになるのは難しいのではないか。
また、IIJmioは申込時にメールアドレスが必須となっており、逆に言えば利用者は全員、メールを既に使っている人になっている。そこにさらにメールアドレスを提供することがニーズとしてあるのか検証する必要がある。
留守番電話、キャッチホンは利用できない。現在提供しているのは転送電話、国際ローミング、国際電話、迷惑電話ストップサービス、遠隔操作となっている。
「『中古端末+SIMのセット販売』モデル登場で更にヒートアップする格安SIM市場」にてお伝えした通り、格安SIM市場のトレンドとして端末とのセット販売が活発になっている。
しかし、イベントの質疑応答においてIIJは「キャリアが提供するバンドル型サービスではなく、端末とSIMが分離したアンバンドル型が理想」と回答している。IIJがキャリアと同じ枠組みのなかで端末とSIMをセット販売するよりは、ビックカメラのように、IIJmioのSIMカード取扱店においてセット販売が行われる方向で対応がなされていくのではないだろうか。
「毎週、品質に関するミーティングを行っている」との言葉が端的に表すとおり、土管屋として、ネットワークの品質向上を継続的に行っていく姿勢が強く印象付けられたイベントと言えそうだ。
ゲオがSIMカードとのセット販売に踏み切り、さらに注目を集める「中古端末」。 ブックオフ、ゲオをはじめとした主要事業者の動向、利用者アンケート調査の結果など、市場の詳細は「携帯・スマートフォンの中古端末市場動向」をご覧下さい。 |
- #15:「SIMロック解除してもMVNOが使えないケース」「IIJがフルMVNOを目指す理由」を解説
- #14:IIJの技術検証で浮き彫りとなった、MVNOと携帯サブブランドの「格差」
- #11:参加者との一問一答を速報
- #9:「新サービスの提供予定」「クーポン3000GBプレゼントの狙い」など、参加者との一問一答を詳報
- #8:iOS端末とMVNOの相性、MVNOの将来像、周囲に勧める際のポイント等を解説
- #7:「SIMフリースマホに潜む落とし穴」や「iPhoneとVoLTEと中継電話の関係」などを解説
- #6:SIMフリースマホの選び方から通信品質・MVNO施策まで幅広い内容の講演に
- #5:「MVNOだとGPSがうまく使えない」噂は本当か?の解説も
- #4:VoLTE対応の検証結果を公開、初心者向けにSIMカードの基礎講座も
- #3:格安SIMにおける音声通話の実態と通信品質ポリシーを説明
- #2:「音声通話機能付与の予定は?」など、参加者から質問相次ぐ
- #1:SMS対応SIMの投入で挙動が改善、MVNOによるSIMの普及の鍵は
[04/24 11:30 追記]
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