モバイルキャリアを含めて、通信キャリアネットワークではまだSDN(Software Defined Networking)の具体的な事例は出ていない状況である。各ネットワーク機器ベンダーは現状のキャリアネットワークが持つ課題を挙げつつ、キャリア向けのSDNコンセプトを提示している段階である。2016年頃からキャリアネットワークにもSDNの導入が始まるものと予測される。
SDNのキャリアネットワークへの導入が期待される背景には、現状のキャリアネットワークが抱える以下の3つの課題が顕在化しているからである。
キャリアネットワークには、通信レイヤーや各ネットワーク・ドメインでさまざまな機器が導入されているため、ネットワーク管理がより複雑となっている。このためサービスの開通や変更の工数が増加し、ネットワーク運用管理コストの肥大化を招いている。
SDNを導入することで、既存ネットワークに比べ、設定の自動化などでコスト削減につながることが期待される。
キャリアは多様な通信サービスを提供しているが、多くのサービス内容は固定的であり、オンデマンドでの帯域の増加など、ユーザーの利用状況に応じたサービスは提供できていない。異なるアプリケーションを利用しても同一の通信サービス品質を共有している。例えば、動画視聴アプリケーションとクラウド・ストレージ・サービスに対して同一の通信サービス品質が提供されており、各アプリケーションに最適な通信環境とは言えず課題を抱えている。
SDNは仮想的にネットワークを構築できるため、特定のサービスに特定の機能を有効にするといった細かいネットワーク制御ポリシーを設定することが可能となる。
クラウドサービスは短期間でサービスを提供することができるが、これはプラットフォームであるサーバやストレージが仮想化されており、リソースをオンデマンドで確保することが可能だからである。一方、キャリアが新サービスを始めるためには、まず基本要件を策定し、ベンダーに開発を依頼、試験運用を行ってからサービス開始となり、1年近くの開発期間を要することが多々ある。
こうした課題に対して、SDNを導入してネットワーク・リソースを仮想化すれば、コントローラーとオーケストレーションでネットワーク・リソースを集中的に管理することができ、キャリアはアプリケーションと連携した付加価値の高い通信サービスを提供可能となる。また、新しい通信サービスを仮想ネットワーク上に動的に配置することにより、サービスインまでの期間も大幅に短縮することができる。
本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて6月5日に公開された記事となります。 最新記事や過去の掲載分は「DATAで見るケータイ業界」もあわせてご覧下さい。 |
- 調査資料:SDNの動向と関連市場における主要プレイヤーの戦略に関する調査2015
- 調査資料:NFVの動向と関連市場における主要プレイヤーの戦略に関する調査 2014
- 2018年度のSDN関連市場規模は5,000億円、SDNスイッチ・コントローラ機器市場は2018年度に750億円規模に
- 2018年度におけるNFV通信関連インフラ市場規模は880億円まで拡大
- NFV導入に向けたNTTドコモの動き 2:残されたNFV商用化における課題
- NFV導入に向けたNTTドコモの動き 1:NTTドコモが先駆的にNFV商用化を図る理由
- NFVがもたらす通信ネットワーク分野へのインパクト 2:NFV通信関連インフラ市場の成長性
- NFVがもたらす通信ネットワーク分野へのインパクト 1:オープン化へ踏み出すベンダ市場