NTTドコモが2015年度決算を発表:

増益の約半分を「スマートライフ領域」で稼いだ15年度、来年度は「躍動の年」に

NTTドコモが4月28日発表した2015年度決算によると、売上高にあたる営業収益は前期比1437億円(3.3%)増の4兆5271億円、営業利益は同1440億円(22.5%)増の7830億円だった。

増益の約半分を「スマートライフ領域」で稼ぐ

営業利益の押し上げに貢献したのは通信以外の事業だ。コンテンツや金融・決済などの「スマートライフ事業」と、あんしんサポートなど「その他の事業」を合計した「スマートライフ領域」の営業利益は前期比712億円増で、今期の増益額に占める割合は49.4%に達した。

スマートライフ領域の2016年度営業利益予想は1200億円(前期比458億円増)で、増益基調が続くと見込んでいる。会見に臨んだ加藤薫社長は「2016年度の利益の上昇は、よりスマートライフ領域の方が強くなっていくのではないか」との見方を示した。

「他サービス利用者の解約率は平均の約半分」
「2016年度は『躍動の年』」

決算説明における、加藤社長の主な発言は以下の通り。

  • 平成28年熊本地震での市町村役場の通信確保
    我々は「市町村役場の通信は途絶させてはならない」という東日本大震災の教訓のもと鋭意努力してきたが、市町村役場があるところはエリアをずっと維持できたと自負している。
  • 熊本地震での復旧方法
    中ゾーン基地局方式を用いた。
    全国に13万局の基地局があり、都心は500m、周辺は1~2kmのゾーンでカバーしている。障害が発生した場合"その地域の親分の基地局"といえる「中ゾーン基地局」が障害発生基地局の方に電波を広げ、肩代わりしエリアを守った。中ゾーン基地局のアンテナは遠隔制御できるようになっている。
    熊本県には基地局が1600あり、うち9局が中ゾーン基地局。全国ベースでは550局あり、17年度までには1200局まで増やす予定。
    中ゾーン基地局は平常時から稼働している。さらに大規模な災害が発生した際には、全国に106局ある、約7kmぐらいのエリアの「大ゾーン基地局」がカバーする。これは非常時に備えるもので、平常時は稼働していない。今回の震災も含め、いままでに一度も稼働させたことはない。仮に全ての大ゾーン基地局が稼働すると人口カバー率で3分の1程度のエリア化が可能。
  • 解約率
    2015年度は0.62%で、前年度(0.61%)からほぼ横ばい。
    ドコモ光やdカードなど、他のサービスも利用している顧客に限れば、解約率は半分程度に下がる。
  • 新料金プラン
    データパック・シェアパック回線数のうち、データMパック以上またはシェアパックの占める割合は約9割。
    新料金プランは当初業績に対してマイナスの影響が大きかったが、アップセルにより着実に回復している。
  • 「ずっとドコモ割」拡充
    新料金プラン開始時に長期割引の「ずっとドコモ割」を導入したが、その際は1000億円程度の値下げ規模だった。今回の拡充では、さらに700億円程度の追加値下げ規模となる。
    「お客さま満足度の向上」と「企業の持続的成長」の両輪を推し進めたい。
  • 音声ARPU
    2015年度4Qは1230円。3Qの1240円から減少しているが、第4四半期はアクセスチャージの精算が発生している。特殊要因を除けばほぼ横ばいで推移している。
  • スマートライフ領域の営業利益
    2015年度の計画は上方修正して700億円だったが、さらに上振れし712億円に着地した。mmbiの減損損失の影響を除いた実力値では787億円。
    スマートライフ領域を「コンテンツサービス」「金融・決済サービス」「グループ会社」「法人ソリューション」「あんしん系サポート」の5カテゴリに大別すると、比率は「3:1:2:1:3」。コンテンツサービスとあんしん系サポートが伸びた。
    スマートライフ領域の年間取扱高は3兆円まで伸びた。
  • グループ会社も利益成長に貢献
    ABCクッキングは会員数が28万に。ショップジャパンは「ワンダーコア」「セラフィット」の販売数がいずれも300万を突破。
    セラフィットは加藤社長も購入。
  • 「+d」のパートナー
    2015年度末時点でコラボレーションは49件。4月21日現在では53件まで増加。
  • 会計処理方法の一部変更
    2016年度より減価償却方法を「定率法」から「定額法」へ変更
    変更初期は減価償却費が圧縮されるが、トータルでは一緒となる。2016年度は、変更が500億円程度の利益押し上げ要因となる。
  • 今年度の目標
    主要数値で、2017年度中期目標を1年前倒し2016年度に達成できる見込みとなった。まだ利益回復の途上だが、開かれたコラボレーションの展開、スマートライフ領域の強化をはかり、今年度は「躍動の年」にしていきたい。
利益・端末販売数・ARPUなど、2016年度目標に関する質問相次ぐ

決算説明における主な質疑応答は以下の通り。

NTTドコモ 代表取締役社長 加藤薫氏
――MNPの流出が減少した要因は。
加藤氏:
光サービス、その前にはiPhoneや新料金プランを導入し、お客様の満足度を向上させてきた。その結果ではないか。ただ、MNPは様々な競争、MVNOを含めた競争のなかで、お客様の満足度(向上)には、どの部分がささるのか、そういうことを注視し続けていきたい。
――MVNOに対しては価格面以外で競争していくのか。
加藤氏:
価格もしかりだが、どれほど使っていただいてどれほど満足されるか、トータルの満足度(を重視していく)。
――来年度、償却方法の変更を除いた営業利益目標は8600億円とのことだが、何で増益を見込むのか。
佐藤啓孝氏(財務、グループ事業推進担当 財務部長):
770億円の内訳は、通信とスマートライフ領域でほぼ半々とみている。

通信はモバイル通信収入の改善が大きく効いてくる。その中で、特に月々サポートの影響がだいぶ小さくなってくるのが押し上げ要因。タスクフォースをうけて発表した値下げメニューで700億円の減収だが、その分を吸収して、月々サポートの影響やコスト削減などを組み合わせ、通信全体で利益を300億円強押し上げる。

スマートライフも300億円強の増益を見込むが、これは15年度までの取り組みを引き続き強化することで、いままでの勢い通り利益を上積みできると思っている。

――2016年度のARPUの見通しは。
加藤氏:
15年度の上昇要因が引き続き続くと思っている。月々サポートの影響がだいぶ小さくなることで、引き続き好調を維持できる。
――今期は増収増益に転換されたが。
加藤氏:
本当にはじめて増収増益の決算発表ができて、正直嬉しい。

ただ、増収増益の発射台は、新料金プランの一時的要因から今までにない低い利益水準となった14年度である。それ2017年度に向けて回復したいと計画していたが、今年度になんとか達成できそうだ、というところまで持ってこられたのは大変嬉しい。社員や関係各所にはコスト効率化を強くお願いしてきた。

スマートライフ領域はゼロからはじめたといっても過言ではない。15年度の営業利益は787億円と発表したが、実は不採算で減損したものもあり、それを除けば実力的には900億円近くの利益まで育ってきている。1つの柱として成長を続けているのは内容的に大変嬉しい。

――総務省からガイドラインに関して是正指導があったが、対策は。
加藤氏:
ガイドラインはまだはじまったところで、ちょっと認識の違い、温度差があった。キャッチアップできるよう準備しているところ。4月中には一定の改善をしようと思っている。きょうぐらいから変わっていると認識している。
――スマートフォン販売台数について。14年度が1459万台、15年度が1544万台と拡大したが、16年度予想は1420万台で14年度を下回っている。その理由は。
佐藤氏:
15年度はタスクフォースの議論があり、駆け込みで販売が出た面があろうかと思う。16年度は見方によるだろうが、ゼロ円から戻して、なるべく値段を付けてということを考えると、お客様の行動を鑑みてそれほど伸びないだろうと判断し、販売計画とした。
――MVNO事業者がdマーケット系を取り扱いはじめたが、今後MVNOをどう見ているのか、またどういう関係性を築きたいと考えているのか。
加藤氏:
1つは低料金だが、そこから育っていだだく方もいるだろうと見ている。我々の料金プランの中でもそういう(最初はデータ量が少なく安いプランを選ばれるが、その後データ量の多いものにシフトしていく)動きがある。

我々は「dマーケット」系をキャリアフリーにしているので、MVNOのお客さまにも使っていただきたいし、使っていただいている例もある。今後も広げていくために、色々とお話をさせていただいているのは事実。トータルでお客様の満足度を上げながら進んでいきたい。

――新料金プランは最初ダメージが大きかったが、今はアップセルが進んでいる。これは結果的にこういう形にできたのか、あるいは当初からダメージを見越した上でこういう効果を見込んだのか。
加藤氏:
前者で、このようになるだろうとは想像していなかった。14年度は新料金プランの影響を単年度で克服できないと判断し、中間で大幅な(下方)修正をさせていただいた。その要因は、6月の1ヶ月で約470万の方が新料金プランにざっと流れた点。我々は50万ぐらいだと予想していたがはずれた。さらに、プランの中で結果的に7割超の方が最も安いプランに集中した。我々は平均的なものはもう少し高いところにくるだろうと思っていたので、それが年間の下方修正にダイレクトにきいてきた。

あえて言えば「新料金プランは失敗ではなかったか」という声も聞いた。我々は「努力します」ということでやってきたが、この2年間でスマホやデジタルコンテンツが利用されるなかで、データプランが2GBでは足りないと感じられるお客さまが多かった。

また、何かにつけて、ドコモショップに来られる時に、やはり「家族でまとめればフレキシブルに有効に使えますよ」ということをオススメの基本にしていて、ドコモショップのスタッフが率先しながらお客さまに訴え、それがある程度受け入れられ、その集積で回復に向かっていると考えている。

この効果が続くよう、「dマガジン」のような魅力的で使いやすいサービスがさらに伸長していくように、また、新たなものも考えていきたい。

通信料金はまだ13年度の水準に戻っていないので、それを目指していく。

ただ、値下げという一言で申し上げると大変失礼かもしれないが、お客さまが満足する使いやすいプランはこれからも続けていきたいと思っている。長期利用者向けの還元、その裏ではコスト効率化をさらに推し進めていきたい。

――16年度は中期計画を1年前倒しで達成するとしているが、好調な中でのリスク要因、不安定要因はないか。
加藤氏:
油断してはならない。コスト効率化は手を緩めない。回復しているときに人心が緩むことが、私としては一番怖い。社内・関係のところに、きっちりと、油断なく、謙虚に仕事を進めていこうと訴えているが、何度となくこれからもキープしていきたい。

外部要因もある。グローバルな経済環境、為替、国内景気そのものも生き物でどんどん変わっていく。変化に対する対応を、我々が努力できるところは最大限やっていく心構えである。

――5月から禁止行為規制が変わるが、どう考えているか。
加藤氏:
A社に行っていることは、公平にB社にもC社にもやりなさい、というものはある程度緩和されると思っている。我々のサービスの提供が(提供を希望する)相手側のご意向に沿いやすくなると思っている。いろいろなケースが実現できるようになるのは嬉しい。

できるだけ、相手側のご希望どおりに対応でき、バリエーションが増えるのはお互いにとって良いこと。

――MVNOから支払われる接続料はどれぐらいの規模か。
加藤氏:
数値はご勘弁いただきたい。

減価償却を定率制から定額制に変更し、見た目16年度は減価償却費が減るので、MVNOに貸すアクセスチャージというか帯域も、傾向としては少し安くなるだろうと思っている。さらに使いやすくなるのではないか。

――端末販売台数が縮小する見通しについて、回復させるための施策の検討は。あるいは下がった水準でキープすると判断しているのか。
佐藤氏:
できるだけ対前年に近づけるべく努力していく。今まで取り組んでいた施策、2台目需要の掘り起こし、タブレットやデータ通信はまだ伸びる余地があり、販売強化していきたい。
加藤氏:
スマホは誤解を恐れずに言えば機能・性能上は一定のところまで来ている気がする。そうすると、音声のクリアさ、操作性、サービス性が、事業と同様に差別化要因になってくると思う。5月11日に新商品・新サービス発表会を行う予定で、ここで一定のものがご紹介できればと思う。あまり大きく期待されるとハズレた時のこともあるので、少し期待していただければありがたい。
――マイナス金利の影響はあるか。
加藤氏:
少しはあると思っている。(事業)活動、福利厚生等でのいろいろな動きがマイナス金利と間接的にリンクするので、一定の影響はある。もちろん金融機関のような大きな影響はないので、注視はしていくが、あまり大きなものではないと認識している。
――MNPの競争がなくなりつつあり、ドコモが長期利用者を優遇すると競争が沈静化していくと思うが、そういった市場環境下で解約率やMNPはどうなるとみているか。
加藤氏:
MNPは何年も前から申し上げている通りプラスにしたいと思っているが、競争環境がそれを許してくれない。回復はしてきているが(プラスへの)壁はなかなかあるのではないか。

計画値はご勘弁いただきたいが(MNPは)計画より少なめ。(ドコモから)出て行かれる方は、競合2社のみならずMVNOにもいかれる。競争環境が変わることを含め、どのような結果が出てくるかは注視していきたい。

――スマートライフ事業は好調だが、現時点でM&Aや買収等は検討しているか。
加藤氏:
正直申し上げると現状はありません。ただお話はたくさんいただいている。

投資については勉強することも過去にたくさんあったので、そういう経験を活かしながら、これはというものがあれば積極果敢に挑戦していきたい。

特定の領域(を狙っていること)はない。できるだけたくさんの方とコラボレーションを組みたいと思っており、そのひとつ結果としてのM&Aや共同出資があると思う。

[05/06 10:35] 一部表記を修正しました。