通話強化に踏み切るMVNO「楽天モバイル」にインタビュー:

5分かけ放題の導入で携帯キャリアと同じ料金体系を実現

携帯キャリアに比べ割安なデータ通信料金をベースにシェアを伸ばしつつあるMVNOだが、音声通話の料金体系は「30秒20円」の従量課金がその中心だった。しかしここにきて、データ通信同様、音声通話でも特徴的な料金プラン・サービスを打ち出す事業者も増えてきた。

そこで本コーナーでは不定期連載として、データ通信だけでなく音声通話の強化に踏み切ったMVNOの取り組みについて取り上げていく。

今回は、国内通話の5分かけ放題オプションを今年1月から開始した「楽天モバイル」を展開する、楽天株式会社 楽天モバイル事業 執行役員 事業長の大尾嘉宏人氏にお話を伺った。

昨秋から今年にかけて顧客層が拡大
5分かけ放題の投入もあり音声SIMが選ばれる比率がさらに上昇
――今年1月から、月額850円で5分以内の国内通話がかけ放題となる「5分かけ放題オプション」を楽天モバイルの契約者向けにスタートされました。まずは提供の狙いを教えて下さい。
楽天株式会社 楽天モバイル事業 執行役員 事業長 大尾嘉宏人氏
大尾嘉氏:
通話ニーズをお持ちの方でも利用しやすい料金体系の実現が最大の狙いです。MVNOを検討される方の中には、データ通信が安くなっても通話をしたらトータルで高くなってしまうのではないかと心配される方もいらっしゃいます。

分かりやすく「通話をしても大丈夫ですよ」と伝えられるかけ放題オプションの提供で、MVNOに対する心理的な障壁を取り除ければと思っています。

――5分間に限定しているとはいえ、かけ放題では採算面で問題はないのでしょうか。
大尾嘉氏:
極端な話、オプション契約いただいている利用者全員が5分以内の通話を頻繁にする事態になれば、それは正直困ってしまうのも事実です。

ただ、5分かけ放題はグループ会社の楽天コミュニケーションズ(楽天コム)が提供する「楽天でんわ」による通話が対象となります。楽天コムの中継電話サービスを活用しているので、回線を借りているNTTドコモの卸値がそのまま適用される訳ではありません。

それよりも、携帯キャリアのプランと横並びになれたメリットの方が大きいですね。

――確かに、NTTドコモが「カケホーダイライト」、au(KDDI)が「スーパーカケホ」、ソフトバンクが「スマ放題ライト」と、国内通話の5分定額プランを提供しています。
大尾嘉氏:
ええ。各社とも、通話定額の基本料金にデータ通信料を組みあわせて月額料金が決まる仕組みですが、我々の料金体系もこれに追いつくことができました。携帯キャリアの利用者になじみのある「データ通信料+5分かけ放題」という同一条件で、我々と携帯キャリアを比較していただけるようになりました。実際に多くの方に利用いただいており、手応えを感じています。
――サービスを開始されてから、顧客層に変化はありましたか。
大尾嘉氏:
通話定額の導入に起因するかどうかは分析が必要ですが、昨秋から今年にかけて特に若い方やファミリー層に顧客層が確実に広がっています。また、音声通話機能付きSIMを選ばれるお客様の比率も高まっています。今年1月の発表会で「音声SIMの割合は62%」と公表させていただきましたが、現在はさらに比率が上昇しています。
――その時期は、総務省タスクフォースによる携帯キャリアのキャッシュバック自粛にも重なります。
大尾嘉氏:
おっしゃる通りで、携帯キャリアの端末ゼロ円販売中止も我々には追い風となりました。また、多くのメディアに格安スマホを取り上げていただいたことで、広く一般の方に実際に認知されはじめたことも背景にあると感じています。我々は格安スマホではなく「適正価格の割安スマホ」だと思っていますが、いずれにせよ顧客層の広がりは複合的な要因に支えられています。
――楽天モバイルは、国内通信事業者として独占提供している「honor6 Plus」をはじめ、多くの端末を取り扱っていますね。
大尾嘉氏:
端末の品揃えには注力しており、お客様のニーズにできるだけ応えるべく、スペックや価格帯でレンジを広く取り、メーカーも国内、海外の両方を提供しています。また「おサイフケータイ」に対応したものも用意しました。

携帯キャリアの利用者は、豊富な端末ラインナップから気に入ったものを選ぶスタイルに慣れていると思います。我々もそこにキャッチアップすべく、セレクションを増やしてきました。

我々は昨年1年間、主に3つの軸を充実させることを念頭に動いてきました。「端末ラインナップ」もその1つです。

2015年は「端末」「料金・サービス」「顧客接点」の拡充を重点的に実施
――では、残る2つの軸は何だったのでしょうか。
大尾嘉氏:
1つは「料金・サービス」の拡充で、5分かけ放題の開始もここに含まれます。もう1つは「顧客接点」の拡大で、リアルな場としてのタッチポイント展開を進めています。

当初は既存店舗への出店が中心で、1号店の渋谷(東京)も、楽天が提供するサービスを体験できる「楽天カフェ」への併設でした。

おかげさまでMNP即日切替対応の受付をはじめてから利用者が急増しました。実際に端末に触れたい方、販売員から説明を受けたい方が多いことを実感するとともに、「次はどこに店舗を出店するのか」と多くのお問い合わせをいただきました。

――御社は楽天市場をはじめオンライン上でのサービス展開が中心ですから、既存店舗といっても限界がありませんか。
大尾嘉氏:
そうなんです。既存のリアル店舗が他にないかと必死になって探し、楽天イーグルスが仙台(宮城)で展開するグッズショップに目を付け、そこにも併設しました。また、楽天本社がある二子玉川(東京)のカフェにも出店しました。既存店への併設が一巡し、今は独自開拓にシフトしています。
――新規出店ですね。
大尾嘉氏:
単独での出店と、家電量販店など他社の店舗内で取り扱っていただくケースの両方を進めています。

単独店舗は仙台駅前(宮城)、銀座(東京)、名古屋栄(愛知)、心斎橋(大阪)、神戸三宮(兵庫)に出店しました。さきほどお話しした併設店とあわせ、直営店は8店舗となります(執筆者注:5月30日には9店舗目となる新店を福岡・天神地下街に開設予定)。

そのほか、家電量販店のエディオン、ケーズデンキ、ジョーシンや、携帯電話併売店への設置を進めています。直営店同様、MNP手続を含めた当日受け渡しに対応しています。

――都内の一部ローソンの店舗で楽天モバイルの商品受取が可能になりましたが。
大尾嘉氏:
オンラインで注文いただき、指定のローソン店頭で商品が受け取れるサービスです。申込のタイミングにもよりますが、最短3時間で受取が可能です。

我々はローソン店舗を単なる受取拠点とは捉えていません。楽天モバイルのラックを設置し端末を展示している店舗もあり、今後もさまざまな形での協業を模索して新たな試みにチャレンジしたいと思っています。

――店舗網はどのくらい拡大させる予定ですか。
大尾嘉氏:
100カ所を目標としています。我々は、携帯キャリアのよい部分は積極的に取り込む一方で、不要なコストは徹底的に省いて顧客に還元することを事業ストラテジーとしています。携帯キャリアのように何千もの店舗を持つことは考えていません。顧客のコストに跳ね返るものは避けつつ、必要十分なものを、できるだけ低コストで提供していきたいと思います。
――ありがとうございました。
本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて5月20日に公開された記事となります。
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