キャリア各社が2015年度通期決算を発表した。その中から、モバイルキャリア各社の設備投資動向と計画に関するデータを取り上げたい。
2015年度におけるキャリア各社の設備投資額は、NTTドコモが5,952億円、KDDI(au)は5,314億円、ソフトバンクが4,125億円で、合計1兆5,391億円となっている。NTTドコモが5,952億円と6,000億円を切り、後述するコスト削減効果が効いてきたものとみられる。
KDDI(au)も当初、6,000億円を計画していた。ただ、四半期決算の度に6,000億円を下回るというコメントを得ており、結果として、700億円規模の大幅な縮小になっている。ソフトバンクは2015年度に国内通信事業で3,900億円を見込んでいたが、実際には第4四半期に上振れしたため、計画を超える投資規模になった。
参考:MCA「携帯電話基地局市場及び周辺部材市場の現状と将来予測 2016年版」
2016年度はNTTドコモが5,850億円、KDDI(au)は5,600億円、ソフトバンクが3,900億円を計画し、合計1兆5,350億円となる。NTTドコモは2017年度中期目標として、2015~2017年度の設備投資額は6,500億円以下を計画していたが、すでに2015年度は5,952億円、2016年度も5,850億円と計画を500億円以上も抑制する形で投資を行う。
NTTドコモは効率化への取り組みとして、高度化C-RANなど新技術や新装置の導入による設備の集約化・大容量化を進め、電気通信設備の建設工事の効率化、物品調達費用などの低減を実施する計画である。
KDDI(au)の2016年度に関しては、5,600億円と微増にみえるが、工事実施時期変更影響などの約300億円が含まれるため、これが2015年度に実施されたと仮定すると、2015年度の5,314億円が5,614億円へ、2016年度の5,600億円が5,300億円となり、実質的には微減に変わる。
また、2016年度の投資内訳も2015年度と同様に、モバイル、固定ともに大幅な計画変更がない見込みである。将来的な投資規模も微減傾向で、増加する計画がないという。その要因として、通信機器や工事単価も下落するため、たとえこれまでと同規模の発注でも微減になる見込みとしている。
ソフトバンクについては、新たな投資計画を公表していない。しかし、過去に関係者が2016年度について3,900億円(国内通信事業)というコメントをしており、この点からも投資縮小の流れは一段と加速していきそうだ。尚、弊社では3,900億円のうち、国内移動体通信事業のみでは3,000億円程度と推計している。
キャリア各社とも、今後は700M/3.5GHz帯の運用開始が控えているものの、大幅な投資増はみられない。そのため、2016年度は線機や部材ベンダ、エンジニアリング会社にとって、厳しい1年となることが想定される。
弊社では、通信産業の設備投資について分析・予測データを作成するため、通信キャリアや工事会社、機器ベンダなど関係者と定期的な意見交換をさせていただいている。そうしたなかで、ここ1~2年は、特に機器ベンダ、エンジ会社などから機器や工事単価が限界に来ているという声を聞くケースが増えてきているように感じる。こうした通信の設備産業を支える関係各社の事情を考慮していかないと、これまでのような「機器の性能と値段」、「工事品質と単価」というせめぎあいのレベルは終わり、通信事業そのものからの撤退を選択するところも出てくるのではないかと懸念される。
本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて6月24日に公開された記事となります。 最新記事や過去の掲載分は「DATAで見るケータイ業界」もあわせてご覧下さい。 |
- 調査資料:携帯電話基地局市場及び周辺部材市場の現状と将来予測 2016年版
- 特集:携帯基地局市場と設備投資の実態 2018
- キャリア別にみた3G/LTE/LTE-Aにおける無線機ベンダの変遷
- 無線機の調達先ベンダ、キャリアごとの違いが鮮明に
- 携帯基地局向け部材市場、2015年度は225億円、18年度に260億円まで回復と予測
- 特集:予想以上に進むキャリアの投資抑制、通建業者も策が必要
- 特集:携帯基地局の今