普及著しいパブリッククラウドへセキュアに接続する新たな方法として、フレッツ回線を足回りとした「クラウドゲートウェイ」サービスの提供を東日本電信電話株式会社(NTT東日本)が2016年10月に開始した。
専用線やインターネットVPNなど従来方式との違い、サービスの内容や投入までの道筋などを、NTT東日本 ビジネス開発本部 第一部門 クラウドサービス担当課長の里見宗律氏、ならびに、同担当の王年東氏にお伺いした。
自社でのクラウド採用の決め手となった「閉域接続」を外販
NTT東日本 ビジネス開発本部 第一部門 クラウドサービス担当課長 里見宗律氏(左)、同担当 王年東氏
――まずはじめに、「クラウドゲートウェイ」シリーズについてお聞かせください。
里見氏:
クラウドゲートウェイは、「クロスコネクト」「サーバホスティング」「アプリパッケージ」の3タイプをラインナップしており、いずれも全国のフレッツ回線からクラウドへセキュアに接続できるサービスです。光コラボ事業者による光回線からも利用可能です。また、有料オプションが必要ですが、NTT西日本エリアからもご利用いただけます。
――3つのタイプの違いはどのあたりでしょうか。
王氏:
クロスコネクトは、「フレッツ光」と「フレッツ・VPNワイド」または「フレッツ・VPNプライオ」 を足回りとしてクラウドへダイレクトに閉域接続できるもので、ネットワークそのものの機能を提供するイメージです。現在「Amazon Web Services(AWS)」「Microsoft Azure」「NIFCLOUD」及び弊社データセンターに接続可能です。
他の2タイプには、セキュアなネットワーク環境だけでなく、クラウドサービスも含まれています。
サーバホスティングには、社内システムを構築するためのクラウドIaaSがセットされています。またアプリパッケージにはクラウドアプリをセットしており、例えばAWSの場合はActive DirectoryやWordPressのWebサーバが提供されます。自らアプリケーションを用意したい方向けに、管理機能と組み合わせたメニューもあります。
――クラウドサービスが含まれる2つのタイプは、クロスコネクトの機能にクラウドをセットしたイメージでしょうか。
里見氏:
サーバホスティングはそのイメージで問題ありませんが、アプリパッケージは正確には異なります。手軽に導入いただけるよう、VPN不要のサービスとなっています。VPNの代わりにフレッツ光 の回線認証機能を用いることで、フレッツ光があれば、申込から最短2時間で開通できる体制を今年4月に整えました。
――サービスを提供するきっかけは何だったのでしょうか。
里見氏:
実はこのサービスは、もともと我々自身がAWSを利用しはじめる際に構築した設備がベースになっています。
2015年11月に提供開始した「ひかりクラウド スマートスタディ」「ひかりクラウド スマートビデオ」が、AWSを初めて採用したサービスなのですが、当時は弊社内でも採用してもよいのか非常に議論になりました。
それまでは全ての設備を自前で持つことでセキュリティを担保してきましたから、検討期間は半年ほどかかってしまいました。そんな中、最終的にゴーサインが出た決め手の1つが「閉域でつなぐのでインターネットには出ない」ことでした。
現在では、ビジネス開発本部が手掛けたものだけでも10を超えるサービスがパブリッククラウド上で稼働しており、積極的にクラウドを活用しています。
――自社でそこまで利用しているのであれば、外部にもニーズがあるのではないか、と考えられたのですね。
里見氏:
おっしゃる通りです。あわせて、閉域接続は、NTT東日本という"お堅い"会社がパブリッククラウドの活用に前向きになれた大きなポイントですから、サービスを提供することでまだ積極導入に踏み切れていない企業への後押しができれば、との思いもあります。
顧客の約半数が他社VPN サービスからの乗り換え、その理由は
――2016年10月にサービスを開始してから約1年半が経ちました。反応はいかがですか。
里見氏:
我々のサービスは通信速度をベストエフォートとし、シンプルな価格体系を取っています。帯域保証型サービスが取りこぼしていた中小企業のお客さまにもご利用いただこうとの思いで商品設計したのですが、実際は大企業層も含めて幅広く採用いただいています。
そこで、大企業層にも刺さるようサービスラインナップを見直しています。もちろん、エントリー型という表現が正しいのかは分かりませんが、もともとターゲットとしていた中小企業の方々にとって導入しやすくする改善も検討課題となっています。
――少し意地の悪い質問ですが、自社のVPNサービスとは競合関係になりませんか。
里見氏:
競合というよりは、弊社のVPNユーザーがインターネットVPNへ流出するのを阻止する意味合いの方が強いですね。ただ、現実には逆の動きがあって、クラウドゲートウェイの利用者の約半数は他社サービスからの乗り換えなんです。「NTT東日本に戻ってきた」とおっしゃられる方もいます。
――嬉しい誤算ですね。乗り換えがここまで多い背景についてはどうお考えですか。
里見氏:
遅延の問題が多いように感じます。インターネットVPNは仕組み上どうしても速度が安定しないデメリットを抱えています。一方で専用線は導入まで相当な期間が必要ですし、コストもかかります。我々のサービスが両者の中間に位置していることが大きいと思います。
また、速度面では、他社のVPNサービスに対しても優位性があります。というのも、他社のサービスは、いったん他社の網を経由してクラウドに接続するからです。我々はフレッツ網とクラウドをダイレクトにつなげることでホップ数を最小限に抑えることができています。
――最後に、クラウドゲートウェイシリーズの今後の取り組みについてお聞かせください。
里見氏:
接続先ラインナップの拡充が挙げられます。商品販売当初、パブリッククラウドを利用されているお客さまの多くは、既に自社設備を持たず基幹系含め全てをクラウドで賄っているものだと想定していました。しかし実際はハイブリットクラウドの方が多くなっています。
ですので、クラウドだけでなくデータセンターへの接続ニーズも大きいと見ています。弊社データセンターとは接続可能ですが、今後は他事業者への拡充も検討課題の1つと捉えています。
また、クラウドゲートウェイシリーズは、弊社自ら営業するだけでなく、パブリッククラウド構築ベンダーさんなど約30社とパートナーを組んで販売協力頂いています。我々がOEMを行い、パートナーブランドで商品化いただいているケースもあります。パートナーからはサービス改善のご要望をいただいており、商品のブラッシュアップを通じてパートナー拡充にも取り組んでいきます。
――フレッツ回線における光コラボと同様、黒子として立ち回るということですね。
里見氏:
おっしゃる通りです。あくまで個人的な考えですが、クラウドが普及するにつれて、ネットワークが空気のような存在になってきていると思います。実際、ネットワークエンジニアと呼ばれる方々が少なくなっていますので、であればネットワークの難しい部分は我々が黒子となってしっかり支えていくべきだと思います。
将来的には"APIを叩いてネットワークが開通する"ような、プログラミングでネットワークが操作できる世界が実現できればと考えています。
――本日はありがとうございました。
インタビュー・イベント取材