MCAでは、2018年7月に「第5世代移動通信 技術・設備投資動向・関連産業サービス開発動向 2018年度版」という調査レポートを発刊した。
今回も、同レポートより5Gの最新動向についてご紹介したい。第三回目は、世界の各国・地域のモバイルキャリアが競い合う5Gサービスイン時期について整理していきたい。
上図は、世界の主要な国・地域のモバイルキャリアが公表している5Gサービスイン時期をまとめた表である。
ここで、主要な地域とは、世界準の国々や地域の中で、特に移動体通信の先進技術導入に積極的な地域を指している。具体的には、日本、米国、欧州、中国、韓国である。これらの国々は、国際標準化においても影響力を持っているといえる。
公表されている5Gサービスインスケジュールでは、韓国が最速となる見込である。韓国では、2018年初頭に平昌にて冬のオリンピック・パラリンピックが開催された。韓国は、かねてよりこのオリンピック・パラリンピック開催に合わせて5Gの商用デモを行い、ショーケースとして世界にアピールする準備を進めてきた。開催期間中には会場周辺に5Gセンターが設けられるなど様々なデモが行われた。オリンピック・パラリンピックの後、韓国では商用化に向けて5G向け周波数の割当ても行われており、商用化に向けて待ったなしの状況である。
韓国の次に続くとみられるのが米国である。米国は当初2020年代前半の5G商用化を見込んでいた。しかし、韓国をはじめとする各国が、当初の想定よりかなり早い時期に5Gを商用化する見通しとなり、これに応じてスケジュールの大幅な前倒しが図られた。
米国の特徴は、5G導入当初、モバイルではなく固定通信向けにFWA(Fixed Wireless Access)によるサービス展開を行う予定であることである。米国は国土が広く、都市部以外ではまだ低速な固定データ通信回線も利用している状況である。この固定回線の高速化に5GがFWAという形で一躍を担う形になる。
続いて、サービスインすると見込まれるのが、韓国と似た状況で5G商用化を進める日本である。ご存知の通り、日本では2020年に東京にて夏のオリンピック・パラリンピックが開催される。日本もこの開催までに、5Gの商用化サービスの提供を図りたいと、官民が協力して5G導入を推進している。
既にモバイルキャリア3社も、様々な特徴や方向性をもって、5Gサービス実現に向けた実証実験を行っている。また、総務省も2019年初頭に5G向けの周波数割当を行う方向で議論を進めている。これら詳細については、是非レポートを参考いただきたい。
日本に続くのが、近年、様々な面で躍進を目立つ中国である。他国に比べて導入時期が若干遅いように感じられるが、これは中国の5G導入シナリオに起因するといえる。5Gの導入シナリオには、既存の4G LTEを流用して無線部分にのみ新方式NR(New Radio)を導入するNSA(Non-Stand Alone)等式と、ネットワーク全体に5G技術を導入するSA(Stand Alone)方式がある。
国際標準化策定の関係でSAの実現はNSAより遅くなる見込みであるが、中国では、導入当初からSAによる5G実現を目指しているとされる。SAによる5Gでは、これまでのモバイルネットワークでは実現し得なかった、超低遅延といった特性を生かしたサービスが実現される見込みである。
中国は、全ての交通を自動運転で実現するモデル都市を国内に設定するなど、まさに次世代サービスの提供を画策している。2022年には北京にて冬のオリンピック・パラリンピックが開催される予定であり、そこでのショーケースは大変興味深いところである。
これらの地域で導入時期が最後の見込みとなるのが欧州である。欧州は、歴史的に国際標準化において非常の重要な役割と大きな存在感を示してきた。5Gの国際標準化においても変わらず重要な位置を占めているが、5Gサービスの導入にあたっては、他国に比べてそこまで急いでいないといえる。
理由の一つは、東アジアと異なりオリンピック・パラリンピックのような重要なイベントでのショーケース的な5G実現が差し迫っていないこと。また、別の観点では、地域全体で、まだまだGSMや3Gを始めとする旧世代の移動体通信システムのユーザが残っていることなどが背景にあるとみられる。広い地域の様々な国が連携して地域運営を行い、議論を繰り返しながら合意形成を図ることを得意とする欧州が、5Gをどのように導入を進めて行くのか注目である。
このように、いよいよ商用サービスインが意識されだした5Gは、国・地域ごとの背景や思惑が交錯している。5Gは、これまでの通信速度の向上を主とした技術革新とは異なり、全く新たなサービスを生み出す可能性がある。国・地域の競争力が変動しかねない5Gの商用化はもう間もなくである。
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