菅官房長官が8月12日に「携帯電話料金は4割値下げできる」と突如発言したことで、国内の携帯電話料金に注目が集まっている。
この発言に対する反論としてメディアでよく引き合いに出されているのが、総務省の「電気通信サービスに係る内外価格差調査」(以下、総務省調査)だ。
東京と、ニューヨークやパリなど海外5都市(以下、諸外国)の料金プランを比較したもので、直近の2016年度版の調査結果概要によれば「東京の通信料金は、2GB、5GBでは中位の水準(諸外国並みの価格)、20GBでは高い水準(諸外国より高い価格)」とされている。
そこで今回は、国内携帯電話料金に関する議論のベースとなる情報を提供すべく、この総務省調査の中身を改めて取り上げてみたい。
総務省調査は毎年行われている(執筆時点では2017年度の結果は未公表)が、2016年度版から調査方法が変更された点は見逃されがちだ。
2015年度までは、各国で「シェアが最も高い事業者のプラン」同士を比較していたが、2016年度は「シェア上位3事業者のうち最も安いプラン」を対象とするものになった。
東京の場合、ソフトバンクが対象事業者に入ったことで、2GBと5GBのモデルケースではY!mobileの価格が採用された。つまり、この部分で諸外国並みの価格という結論が導き出されたのは、割安なサブブランドの価格で比較したことも大きな要因といえる。
実際、「諸外国より高い」と判断された20GBのモデルケースは、NTTドコモの価格で比較されている。
「サブブランドの価格との比較で諸外国並みだから日本の携帯通信料金は高くない」と言い切ってよいのだろうか。
どうやら総務省もこのような指摘が来ることは想定内だったようで、シェアが最も高い事業者(メインブランド)同士の比較もあわせて行っている。
調査結果を分かりやすく整理するため、外国5都市の価格の平均値を計算し、東京の価格と比較したのが以下のグラフだ。菅官房長官の発言を追認する訳ではないが、確かに通信料金が3~4割高い実情が浮かび上がった。
ただし、話はここで終わらない。
そもそも一般の利用者は、通信料金だけでなく端末の割賦代金もあわせて「携帯代」として支出している。通信料金だけを切り出した比較ではなく、トータルでの負担感を比べるのが、最も実態に近いのではないだろうか。
実は総務省調査では、通信料金と端末割賦代金が一体となった料金プランを前提に、iPhone7(32GB)を購入したケースでの料金比較も行っている。対象は「シェアが最も高い事業者のプラン」だ。
結果は上記の通り、東京の価格は諸外国並みで、中でも2GBと5GBのモデルでは諸外国より割安となった。
総務省調査を整理した結果、ファクトとして言えるのは「端末代を含めたトータルコストは諸外国並みだが、通信料金だけで見ると諸外国より高い」ことだろう。
端末の割賦代金を支払っているあいだは諸外国並みの価格で利用できるが、割賦を支払ったあとは諸外国より3~4割高い通信料金を支払わされているとも言える。これはつまり、頻繁に端末を買い替えるユーザーが得をし、同じ端末を使い続けるユーザーが損をするという、国内市場で長年横たわってきた問題を再確認したに過ぎない。
問題解決の切り札とされる「端末と通信の分離」は、損をするユーザーが減る可能性はあるが、端末の買い控えを引き起こすリスクをはらむ。かといって、長期利用者の犠牲の上に、端末をどんどん買い替えるユーザーだけを利する世界を続けてよいとも言い切れない。消費者保護や産業発展など複雑な利害が絡むだけに、一筋縄ではいかない難題だ。
また、もっと根本的な話として、海外の価格をベンチマークとして日本の通信料金の議論をしてよいのかも定かではない。通信品質やサポートなど、サービスの内容は各国でまちまちであり、同列に比較できるものではない。
海外の価格との単純比較で片付けるのではなく、大所高所からの冷静かつ論理的な議論が総務省や公正取引委員会など各所で進められることを期待したい。
本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて9月14日に公開された記事となります。 最新記事や過去の掲載分は「DATAで見るケータイ業界」もあわせてご覧下さい。 |