様々な産業分野を巻き込むべく、通信キャリア各社が開設している5Gトライアル施設。
その現状と今後についてインタビューする連載企画の2回目は、KDDI株式会社 経営戦略本部 KDDI DIGITAL GATE センター長 山根 隆行氏に、同社の施設「KDDI DIGITAL GATE」の状況についてお話を伺った。(取材は3月下旬、施設内にて実施)
まず、現在の4G LTEはスマートフォンが普及の起爆剤となりましたが、5Gはユースケースこそ百花繚乱とはいえ、牽引役がまだ絞り込まれていない状況です。そのような中で、我々が一社単独でキラーとなるデバイスなりコンテンツなりを作っていくのは限界があります。
そこで、お客さまと一緒に新たなビジネスを作り上げていき、その中にKDDIの通信が組み込まれている、そんな世界を目指したいと思ったのがそもそものきっかけです。
そしてもう1つは、新たなデジタル技術を駆使して既存ビジネスを変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)の支援があります。国内企業がDXを進める上でエンジニア不足がボトルネックの1つであると感じており、その対策に当施設を活用してもらいたいと考えています。
社内に開発陣がいることで、ビジネスを考える人と、それをテクノロジーでどう実現するかを考えて作る人が、同じ方向を向いて同じチームで活動することができます。こうすることによって、少し作っては形を変えてみる、あるいは、ダメだったら別の方法に取り組む、といった具合に、柔軟で素早い開発が可能となりました。当初は5名程度ではじめた取り組みも、現在では約200名の一大組織となり、KDDIが提供するアプリなどの開発を担っています。
日本では、エンジニアを自社内に抱えるのではなく、SIerなどのIT専業ベンダーに開発を委託するケースが主流ですが、この場合は開発の度に外注しなければならず柔軟な対応ができません。そこで、我々の開発チームの一部を当施設に呼び、企業のアジャイル開発を支援する体制を作りました。
今では、お客さまと我々のエンジニアが肩を並べて当施設で開発を行っています。さらに、お客さまが自らアジャイル開発チームを作るときの手助けも行っています。
例えばIoTの開発では、秋葉原にパーツを買いに行ってセンサーを取り付け、すぐにデータをクラウドに上げる、そんなことまで行っています。
巨大な仮説を立てて、しっかり要件定義をして作り上げるのではなく、できるだけ小さくてユーザーにとって価値がある仮説を作り、さらにそれをすぐに形にし検証する、このサイクルを素早く回しています。
最終的にはお客さまが当施設での開発ノウハウを自社に持ち帰って頂き、継続していただきたいと思っています。その開発の中に我々の通信サービスも組み込んでもらえると万々歳ですね。
とはいえ、DXを推し進める中で通信が入らないケースはゼロといっても過言ではありません。お客さまにとって価値あるサービス作りをしていけば、自ずと通信サービスが組み込まれていくでしょう。弊社にとっても通信の部分は大切ですから、当施設には5G試験環境をきちんと整備しています。
ただし、まだ実験免許しかない状況(注釈:取材時は5G向け周波数帯の割当前)ですので、限られた環境下でしか電波の送受信ができません。5Gでどのように挙動が変化するのか、もう少し手軽に試験できるよう現在はエミュレータも用意しています。
これは過去に弊社が実施した実証実験結果から得られたデータを再現するもので、例えばモバイルアプリの動作が4Gと5Gでどう差がでるのかなどを、エミュレータにつなぐことで手軽に試していただけるものです。現在は当施設内にありますが、ご要望があれば貸し出しも可能となっています。
また、我々のアセットはアジャイル開発陣だけではありません。IoTプラットフォームを持つソラコム、クラウドインフラの構築・運用を手掛けるアイレット、アクセンチュアとの合弁で立ち上げたデータサイエンティスト集団のARISE analyticsなど、我々のパートナーも必要に応じて参加してもらっています。
「KDDI ∞ Labo」は2011年に開始したスタートアップ企業のインキューベートプログラムで、当初は渋谷ヒカリエで活動していましたが、当施設の立ち上げと同時にこちらに拠点を移し、イベントもここで行っています。
当施設を訪れるお客さまは大企業層が中心となっていますので、両者の交流を密にすることで、スタートアップの皆さんが持つ尖った技術を活用し、大企業のお客さまがスケールアップさせていく世界が広がればと考えています。
本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて5月7日に公開された記事となります。 最新記事や過去の掲載分は「DATAで見るケータイ業界」もあわせてご覧下さい。 |