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楽天モバイルに聞く「5Gに向けた取り組み」と「4G開発テスト環境」

本コーナーでは、4月~5月にかけて実証実験施設を軸とした5Gの取り組みについて、通信キャリア3社のインタビューを掲載してきた。その続編として、2019年10月に携帯事業に参入する楽天モバイルについても取り上げたい。

楽天モバイル ネットワーク本部 副本部長 兼 技術戦略部長の内田信行氏に、5Gに向けた取り組みやサービス展望を中心に、モバイル事業の現状についてお話を伺った。

楽天モバイル 内田信行氏
新サービス開発の主軸は「楽天ポートフォリオ×5G」
――4GでのMNO参入が今秋に控えていますが、その先を見据えた5Gへの主な取り組みについて、まずはお聞かせください。
内田氏:
そうですね。そもそも我々が4Gの周波数割当を受けたのが2018年4月ですから、他の通信キャリアさまはそれ以前から5Gに関する取組を数多くされていると思います。歴史が浅いため、急いでキャッチアップを進めている状況です。

実証実験には2018年から取り組んでおり、ラボ内だけでなく、米国及び日本国内でのフィールドテストも行っています。

――実証実験ではどのようなことをテストされたのでしょうか。
内田氏:
9月にダラスで行ったのは、スマートゴーグルに360度ARコンテンツを配信する実験です。
ダラスで行われた実証実験

11月の楽天生命パーク宮城では、自動配送ロボットの遠隔操作や本人確認、ドローンによるユーザー認証技術、360度カメラを用いた8K VRコンテンツのスマートゴーグルへの映像配信といった5G実証実験を行いました。

楽天生命パーク宮城で行われた実証実験
――米国やスタジアムなど、実験場所がユニークですね。
内田氏:
米国を選んだのは、迅速な実験実施を狙ったものです。屋外で実証実験をするには、実験局免許の取得や他キャリアさまとの干渉調整など時間がかかってしまいます。米国ダラスには、モバイル事業におけるパートナーであるノキアさまが既にシステムを構築しており、そこに我々のアプリケーションを持って行き、短期間で実験にこぎつけました。

スタジアムについては、見通しの良いフィールドであり、グループ内ということもあって社内で場所を探している際に球場担当者とすぐに連携できたため実現しました。楽天はサービス間の垣根が低く、実証実験ではドローンの事業部など他部署からも多くの協力を得られました。球団(東北楽天ゴールデンイーグルス)にも、練習風景の撮影で協力してもらい、360度VRコンテンツを作ることができました。

――実証実験を行った狙いはどのあたりにありますか。
内田氏:
まずは電波の伝搬特性を確認するためです。sub-6は現行周波数帯とそれほど電波特性に違いはありませんが、ミリ波はこれまでと性質が大きく異なります。その特性を実際に確認したいと考えました。そのため、実験はいずれも28GHz帯の電波を用いています。

ただ、最大の狙いはユースケースのトライアルです。

弊社は「楽天市場」をはじめとした各種インターネットサービスから立ち上がった会社ですから、5Gでも「ユーザー体験がどう変わるか」が最も重要だと考えています。もちろんしっかりとした通信品質を提供することがその前提ですが、その上で何ができるのかが大切だと感じており、実証実験ではサービスの有用性確認に重きを置きました。

――通信キャリア各社は、5G時代のサービス創出を狙ったパートナー作りを進めています。他社の動きを踏まえ、御社のお考えはいかがですか。
内田氏:
さまざまなアイデアを生み出すため、パートナーとの連携は必須だと感じています。我々とパートナーの両者で、5Gを使って何ができるか考えてゆきたいと考えています。

ユースケースの検証でも、既に他のキャリアさまが先陣を切って様々な試みを行われています。後発のアドバンテージを活かして、ある程度可能性のあるものにフォーカスしていきます。

一方で、サービスの創出については、我々楽天グループには様々なサービスがありますから、社内の連携によって、グループ内で出来ることも多いと思います。

――いわゆる「楽天エコシステム」の活用ですか。
内田氏:
おっしゃるとおり、「楽天エコシステム」を活用していきます。実証実験で用いたスマートゴーグルであれば、「楽天トラベル」内に旅先の映像を用意して需要を喚起したり、「楽天市場」で商品の360度画像を表示させたりと、色々な可能性があります。

今の話はあくまでたとえ話ですが、我々の既存サービスの中には、5Gと相性の良いものが多く、ネットワークさえできればすぐにでもやってみたいユースケースはいくらでもあると実感しています。

現在5Gのサービス開発を専門に手掛ける部隊が立ち上がっておりますが、楽天の既存事業を手掛けている社員も巻きこみながら、「楽天ポートフォリオ×5G」で面白いサービスを生み出していきたいと考えています。

4Gネットワーク構築に向け専用ラボで行われているテストの詳細は
――今回の趣旨とは少し離れますが、4Gの状況についてもお聞かせください。テストの核となる拠点は、次世代ネットワーク(4G/5G)の試験施設「楽天クラウドイノベーションラボ」になるかと思いますが、施設ではどのようなことをされているのでしょうか。
内田氏:
ラボ内のデータセンターには、我々が構築するクラウドベースの仮想化ネットワークを再現しており、日々ソフトウエアの検証を行っています。

たとえば負荷試験であれば、シミュレータソフトだけでなく、シールドボックス内に数百台レベルで配備しているスマートフォンも用いています。シミュレータだけでは最新端末の挙動までカバーできないためで、今は新機種が出たらすぐに取り入れ、様々な種類の端末で試験を行っています。

――試験と一口にいっても、非常に膨大な量になりませんか。
内田氏:
ええ。なのでテストも自動化しています。最初にテスト内容を設定すれば、あとはたとえば1万回なら1万回、システム側で試験を行い、終了後にはそのうち何%が成功したのかレポーティングされていきます。

また、ノキアさま、アルティオスターさま、シスコシステムズさまなど多くのベンダーがソフトウエア開発に参加しており、それらをすべて総合的に試験する必要があります。そこで、ラボと各ベンダーを結ぶポータルを用意しています。

まずは各ベンダーが試験を行い、合格したソフトウエアはポータルを経由しラボ内に配置されます。そこでコアから無線、端末に至るまで試験を行います。エラーが出たらバグレポートをフィードバックし、すぐに改良できるようにしています。

テスト環境のためだけでなく、商用環境と同一の条件で実験を行い、我々が全国で商用展開する前の最終テストという位置づけになっています。

――いま一番苦労されている点は何ですか。
内田氏:
これまでご説明したように、完全な仮想化ネットワークについてはラボでの充分な検証体制を構築しており、粛々と進めている状況です。

むしろ、基地局設置交渉の方がどちらかといえば苦労が多いですね。これは技術の問題ではなく力技ですので、我々固有の問題ではなく各社必ず苦労するところではないでしょうか。そこにはショートカットはなく、ひとつずつ丁寧に進めていくことにほかなりません。

MNO事業は社会インフラですから、無謀なことはできません。少しでも不安な点があれば、ラボでの試験を繰り返し試行錯誤しながら、解決します。楽天モバイルはその過程をしっかり貫徹していきたいと思います。

――本日はありがとうございました。
本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて6月21日に公開された記事となります。
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