5G商用化を機に大きく変化する可能性が指摘されているのが、基地局の中核装置である無線機市場である。無線機の開発に関して、世界的にはエリクソンやノキア、華為(ファーウェイ)といったグローバルベンダが標準化をリードしてきた。
グローバルベンダはその一方で、他社との差別化を図る目的で独自開発する部分も多く、異なるベンダ間の製品がつながることはなかった。その弊害の顕著な例がCA(キャリアアグリゲーション)である。CAとは、例えば2GHz帯や1.7GHz帯など複数の周波数の電波を束ねてデータ通信速度の高速化を図る技術だが、これを使うには異なる無線機ベンダ間では不可能だった。
そのため、キャリアは関東や東海、九州など地域別に無線機ベンダを割り振ることでCAを提供してきた。但し、こうした弊害をNTTドコモなどは自社独自のインタフェースを搭載すること(ドコモ仕様)で乗り越えているところもある。
『ベンダロックイン』と称されるほどグローバルベンダ主導が続いた無線機市場だが、5Gで大きな変化を及ぼすとされているのが、「ORAN(Open Radio Access Network) Alliance」である。これは次世代の無線アクセスネットワークをより拡張性が高く、よりオープンでインテリジェントに構築することを目的に、NTTドコモ、AT&T、チャイナモバイル、ドイツテレコム、オレンジの大手キャリア5社が中心となって2018年2月に設立された。
現在はキャリア19社の他にエリクソン、シスコシステムズ、ノキア、インテル、サムスン電子など50社超のベンダが参画している。同組織では、相互接続が可能なオープンなインタフェースの推進、無線ネットワーク装置の仮想化などに取り組んでいるが、要は異なるベンダ間のコンポ-ネントを繋げられるようにしたり、AI技術などによるネットワーク最適化やネットワーク運用の自動化を促進していくことを狙いとしている。
同組織は2019年2月、親局と複数の無線子局によって構成されるC-RANにおいて、異なるベンダの親局と無線子局を相互接続するマルチベンダ無線アクセスネットワークを実現するため、共通のインタフェースとなるO-RANフロントホールを検討していくことを発表した。
こうした動きが本格化してくれば、これまで『技術のブラックボックス化』によって参入できなかったシスコやIBMなどITベンダにとってはビジネスチャンスかも知れないし、関係者のなかには富士通やNECなど国内ベンダ復権の可能性を指摘する声も聞かれる。いずれにしても、今後は部品と部品を繋ぐインテグレート力が重要なケイパビリティとなりそうだ。
問題は、既に世界で次々と導入が進む5Gビジネスを展開しているグローバルベンダが、どこまでO-RANに協力するかだろう。自らのビジネスに水を差すことになりかねず、前向きな参加を表明していても、本音は全く逆だというところもあるようだ。
しかし、スマホが中心だった4Gまでと異なり、自動運転や遠隔医療など5Gではその用途だけでなく、社会でキャリアの果たすべき役割が大きく変化する。その点からも、5Gではキャリアがこれまで以上にネットワーク戦略の主導権を握る必然性が生まれていることは間違いなさそうだ。
本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて7月22日に公開された記事となります。 最新記事や過去の掲載分は「DATAで見るケータイ業界」もあわせてご覧下さい。 |