前回に引き続き、通信キャリア各社の2019年度通期決算をもとに各社の主要数値の動きを比較していきたい。今回は「解約率」と「1契約あたり収入」に焦点を当てる。
2019年度通期の解約率は、NTTドコモが0.54%(前年度比-0.03ポイント)、KDDIが0.72%(同-0.04ポイント)、ソフトバンクが0.96%(同-0.11ポイント)と3社揃って改善している。端末値引規制の導入でもともと市場流動性が低下傾向だったところに、コロナ禍による外出自粛や店舗時短営業も重なり、最大の商戦期である1~3月期の解約率も前年同期と比べて軒並み減少している。
4月に入り楽天モバイルが商用化サービスを開始し、「1年無料」をキーワードに顧客獲得を進める一方、UQ mobileやY!mobileが楽天対抗ともいえる料金プランを打ち出すなど、市場の状況は変わりつつある。市場流動性のバロメーターである解約率の今後の動きには要注目だ。
続いて、1契約あたり収入の動きを見てみたい。2019年度通期、KDDIのau総合ARPAは7760円(前年度比330円増)、NTTドコモの総合ARPUは4740円(同60円減)、ソフトバンクの総合ARPUは4420円(同60円増)で、NTTドコモだけが減少する形となった。
NTTドコモは今年度のARPUも60円減の4680円と見込んでおり、厳しい状況が続きそうだ。とはいえ、同社のARPUは、他社と異なりコンテンツサービスや補償サービスの収入が含まれていない点には注意が必要だ。実際、今年度は、コンテンツや金融など「スマートライフ事業」は21.3%増、補償サービスなど「その他の事業」も2.9%増となり、通信事業の減収を補うまでには至らないものの、堅調に推移している。
一方、これまで増加基調を維持してきたソフトバンクだが、1~3月期は4330円で前年同期比60円減となった。Y!mobileとLINEモバイルの契約数増加は同社のARPU下押し要因となるため、マルチブランド戦略の一層のハンドリングが求められそうだ。
最後に、2社と異なり1契約者あたり収入(ARPA)を開示するKDDIの動きだが、1~3月期は初めて8000円の大台を突破し、過去最高となった。今年度通期のARPA予想値は7950円と、19年度から190円の上積みを見込んでおり、現在の勢いを維持する計画を立てている。
本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて6月5日に公開された記事となります。 最新記事や過去の掲載分は「DATAで見るケータイ業界」もあわせてご覧下さい。 |
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