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菅総理誕生で注目される「携帯料金引き下げ」の行方

安倍首相の退陣により、官房長官だった菅氏が新総理に就任した。デジタル庁の設置や行政改革など新たな政策を打ち出しているが、目玉の1つに、「大手3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)の利益率は20%を占めており、携帯料金は4割程度下げる余地がある」として、引き下げを明言している。

実際、家計支出に占める通信料金は年々増加しており、携帯料金が家計を圧迫していることは間違いない。仮に4割下げることができれば、実質的な減税に匹敵するような効果が期待される。

今回は、菅氏の総理就任による携帯業界へのインパクトについて考えてみたい。

1.機能しない「新施策導入→競争活性化→料金引き下げ」というループ

総務省は2018年10月に「モバイル市場の競争環境に関する研究会」を立ち上げ、有識者による議論を行い、下記のような施策を決定した。

・解約違約金を従来の9500円から1000円へ引き下げ
・期間拘束の有無による月額料金の価格差を現在の1500~2700円から170円へ引き下げ
・通信契約の継続利用を条件としない端末割引額の上限は2万円まで
・通信契約の「継続」を条件とした端末価格の割引禁止
・長期利用者向けの割引は、許容される割引の範囲が1カ月分の料金までに制限

最近では、同じ電話番号で携帯会社を乗り換える際に必要な3000円の手数料を原則無料にしようとしている。

上記提言を受け、端末と回線の分離プランに対応していなかったNTTドコモは2019年6月より最大4割安くなるとする新料金(ギガホ、ギガライト)を導入、10月には第4の携帯会社として楽天が新規参入を果たした。

そもそも携帯料金の引き下げ問題は、最近にはじまった話ではない。2007年頃から総務省主導の研究会で議論が行われてきたが、ことごとく失敗続きで「官製不況」という言葉も生まれた。

では今回の「モバイル市場の競争環境に関する研究会」で導入された一連の施策はどうだったか。

端末販売時に携帯会社が提供する端末割引額が2万円までと抑制されたことで端末の販売量は減少した。それに対して携帯会社の利益は、端末販売量が減少したことで販売支援金の支払いが減少し、逆に増加。皮肉にも営業利益率上昇の要因になってしまった。

期待された市場の流動化にも繋がっていない。携帯各社の解約率は施策の導入前と変化はなく0.5ポイント前後を推移しているのだ。

これまでのところ「総務省主導による新たな施策導入」→「競争の活性化」→「料金引き下げ」という目論見からは大きく外れてしまっている状況にある。

2.消費者負担軽減と産業政策のバランスが求められる新たな施策

携帯事業において、政府は国民の共有財産である周波数の許認可権を持っており、携帯会社としては従わざるを得ない側面がある。しかし、その一方で民間企業でもあり、競争原理の中で売上や利益の最大化を目指すというミッションも持ち合わせている。実際、菅総理の誕生によって、通信会社の株価は下落するなど、早くも影響を受けている。

今後総務省としては、携帯料金への引き下げ圧力を再び強めてくるだろう。しかし、本来は「携帯市場の活性化」につながる施策によって競争原理が働き、その結果、携帯会社の料金が下がっていくという好循環が創出されることが何よりも重要なはずだ。

単純に料金を引き下げるだけでは、5G投資の本格期を前に十分な設備投資ができなくなったり、他国に後れをとるような事態も懸念される。今後、5Gがあらゆる産業の基盤として機能していくと期待されるなか、インフラ整備の遅れは国の産業発展に大きな影響を及ぼす。

新たな施策の1つの方向性としては、MVNO専用の周波数割当とMNOによる運用管理、MNOとMVNOの接続料金の更なる引き下げやeSIM導入の制度化、MVNOの受付をMNOのショップでもやるなど、MVNO支援に更に一層舵を切ることではないだろうか。

携帯電話産業は、「管理的競争市場」と呼ばれ、携帯会社を頂点に発展してきたが、ガラケーからスマホへのゲームチェンジの際には、国内の端末ベンダーは当時の急激な環境変化に対応できず、ほぼ撤退に追い込まれた。状況は通信インフラ分野も同じだ。今や、海外ベンダーの存在なしには端末もインフラも、そしてプラットフォームも成り立たなくなっている。

利用者負担軽減のため利用料金の引き下げは大事だが、これまでの経緯を含め、改めて産業政策という観点からも検討していく必要はないのか。政府には、競争が活性化するための新たな施策について期待したい。

本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて9月24日に公開された記事となります。
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