総務大臣による携帯料金引き下げ要請について、携帯大手3社の対応策が出そろった。今回は、携帯3社の新料金プランに至る大きな流れと今後について考察してみたい。
携帯料金の引き下げ問題は、菅政権の目玉政策として注目を集めてきた。就任後初の記者会見で「国民の財産の電波の提供を受け、携帯電話の大手3社が9割の寡占状態を長年にわたり維持して、世界でも高い料金で、20パーセントもの営業利益を上げ続けている」と述べ、武田総務大臣に「具体的な結論」を出すよう指示した。
政府が特に問題にしたのが、世界6都市の料金を比較した20GB以上と定義する大容量プランの価格で、20GBではニューヨークと僅差だが最も高額だった点だ。MNP無料化やMVNOへの回線貸し出し料金引き下げなど、総務省は携帯料金引き下げへ向けた政策集である「アクション・プラン」を発表。そうした政府の意向をいち早く踏まえ、KDDIとソフトバンクはその翌日にサブブランドである「UQモバイル」「ワイモバイル」で20GB向け新料金プランを発表したが、武田総務大臣はメインではなく、サブブランドで値下げしてきたことに不満を表明。携帯会社は仕切り直しを迫られる格好となった。
この間、NTTドコモはNTTによる完全子会社によるTOB期間となっていた影響で身動きが取れずにいた。しかし、12月3日に新料金プラン「ahamo」を発表したのに続き、12月18日には5G向け新プラン「5Gギガホ プレミア」と4G向けプラン「ギガホ プレミア」も表明し、先行2社の間隙を突く「ゲームチェンジ」を一気に仕掛けてきた。
「ahamo」の月額基本料金は2980円で、データ量は20GB、5分/回までの音声かけ放題がセットとなっており、82の国・地域で国際ローミングも可能となっている。ネット専用の受付とすることでコストを削減した。一方、「5Gギガホ プレミア」は月額6650円で無制限でデータ通信を利用できるプラン。現行の5Gギガホから1000円を値下げした。また、「ギガホプレミア」は、月額6550円で60GBまでのデータ通信が利用できるプラン。現行のギガホから600円値下げとなっている。
これまで最も保守的だった最大手のNTTドコモがプライスラインを一気に引き下げ、データ無制限など大容量プランを強化してきたことで、次の焦点はKDDI,ソフトバンクの対抗策へと移った。その後、ソフトバンクが「ahamo」対抗で同じ料金設計ながらLINEをノーカウントとすることで差別化を図った「SoftBank on LINE」(仮称)を、大容量プランでは4G/5G共通の新料金サービスとして、データ容量が無制限の「メリハリ無制限(月額6,580円)」を発表する。既に提供済みの50GBのデータ容量と「動画SNS放題」がついた「メリハリプラン」と比較して、1,900円の値下げとなっている。
先行2社の動きを横目に、満を持して2021年に動いてきたのがKDDIだ。同社は、オンライン専用20GBプランでは月額2480円の「povo(ポヴォ)」を発表した。24時間のデータ定額や、1カ月間の通話定額など、必要な機能を追加できるトッピング方式を採用することで独自性を打ち出してきた。また、大容量プランでは「使い放題MAX 5G」と「使い放題MAX 4G」が発表となったが、これは従来の「データMAX 5G」と「データMAX 4G」を見直し( 「使い放題MAX 5G」は2070円、「使い放題MAX 4G」は1070円値下げ)たもので、いずれも割引適用前の月額料金が6580円に設定されている。
そして、KDDIが更に一歩踏み込んできたのがUQモバイルの「くりこしプランS/M/L」だった。「くりこしプランS」が3GBで月額1480円、「くりこしプランM」が15GBで月額2480円、「くりこしプランL」が25GBで月額3480円に設定されており、余ったデータ容量は翌月にくりこすことができる。競合するワイモバイルが12月に発表した「シンプルS/M/L」と比較しても、月額料金で500円安価になっているだけでなく、「くりこしプランM」と「くりこしプランL」ではデータ通信量が5GBずつ多く設定されている。
このように携帯各社の新たな料金プランでは、大きく「20GBプラン」「無制限プラン」「
「サブブランド」の領域で改定が行われた。各社の新料金プラン開始時期は3月以降となっている。
一方、一連の改定が行われていない領域が、比較的低容量の「段階制プラン」である。下図にあるように月7GBまでの利用者が35.3%占めているが、ほぼ手つかずの状態となっている。料金引き下げ幅によっては、収益に直撃するだけに各社慎重にならざるを得ないと思われるが、ここも近々に新料金プランが登場すると見込まれる。
総務省の強烈な圧力によって実現した今回の新料金プランだが、本当に健全な競争環境が生まれたのだろうか。料金は下がったが、顧客の流動化が促進されるようには思えず、逆に市場の9割弱を占める携帯大手3社による寡占化が一層加速されやしないか懸念する。総務省には、時計の針を逆回転させないよう舵取りが求められていきそうだ。
本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて1月26日に公開された記事となります。 最新記事や過去の掲載分は「DATAで見るケータイ業界」もあわせてご覧下さい。 |